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9月分 清記 (1) 秋淋しピアスの穴を抜ける風
(2) 野分晴湖に逆さの榛名富士
(3) 辰年のつちのえたつといふ厄日
(4) 銀木犀寺行く道のそこここに
(5) 陽は花に風は葉にあり酔芙蓉
(6) 雨上がり早起き小啄木鳥の突く音
(7) 蟋蟀の街の喧噪鎮めけり
(8) 台風は居心地良くて日本が好き
(9) 幕引きのバックホームや獺祭忌
(10) 海猫帰る魚を貰ふ猫のゐて
(11) 蝶が舞ふ秋の日差しに影を曳き
(12) 桃を剝く父の手いつも温かし
(13) 桃すする萎んだ顔のうれしさう
(14) 赤とんぼ群れゐて寂し空のあを
(15) 虫の声ジャングルジムへ満ちてゆく
(16) 濁り酒上唇を舐りつつ
(17) 星流る小栗に見えし近代化
(18) 交差点頭上に椋鳥人急ぐ
(19) 公道を割りて堂々ゑのこ草
(20) 濡れゐたる心模様よ秋の海
(21) いつの間に頼れる背に男郎花
(22) サイレンの輪郭めきて望の月
(23) 逢へなくてこころ離れて片時雨
(24) 伊香保社への石段街を見上げたり
(25) 秋の旅また運休の新幹線
(26) 苦瓜の料理は得意処暑の夕
(27) 朝顔に水に宇宙にみんな渦
(28) 雨上がり小啄木鳥突きますコトトトト
(29) 追へば跳ね跳ねれば追ひてばった捕る
(30) 郵便屋家は素通り風は秋
(31) タルタルにレアステーキの敬老日
(32) 休暇果つ昔ながらの喫茶店
(33) 戴きし梨の重さよ甘き香よ
(34) 好物の桃剥く父の温かさ
(35) 馬鈴薯に添へられてゐる農夫の名
(36) 虫の声未だひと色や夕の風
(37) 素振りするネクストバッター鰯雲
(38) 枝豆や四方より指の伸び来たり
(39) 古希過ぎの男声合唱天高し
(40) 生温き喉を潤し青蜜柑
(41) ラブソング口遊む吾子猫じゃらし
(42) 生きてゆく為の慕情や葡萄喰む
(43) 長き足持て余したる螽斯
(44) 大阪を満たす盃月の酒
(45) 笑ひ皺ともに増やして秋日向
(46) アトリエの主は夢二螽斯
(47) 休暇明その気怠さを曳く忌日
(48) 秋の風ほてりし体しずめたり
(49) 寄り添ふて栗の兄弟毬の中
(50) タイフーンのらりくらりに牙持てり
(51) 群蜻蛉の中を進む親子連れ
(52) 池辺にどんぐり一つ二つ三つ
(53) 落鮎の炭焼き酒は竹徳利
(54) 十六夜の切符は要らぬ辻の駅
(55) 薄紅の古刹和まし萩枝垂れ
(56) 手土産の葡萄美味しと食す父
(57) 濁り酒寝起きの顔に茣蓙のあと
(58) 間遠なる姉の便りや鰯雲
(59) 霧の香や袖をつままれどぎまぎと
(60) 小さき実の小さく熟れけり豊の秋
(61) 秋燕古墳の里を渡り行く
(62) 御大が薬掘るなり影かたち
(63) 掛け釘は錆びるものなり秋簾
(64) 目配せの距離のマヌカン秋深む
(65) 都合よき恋の記憶や星流る
(66) 旅客機の白々発てる良夜かな
(67) 図書館の空席目立ち秋思かな
(68) 迷ひ入る霧の草原ひとりだけ
(69) 木道の朝の湿りを踏む花野
(70) 木槿咲く夕には散りし庭を掃く
(71) もう飛べぬ秋蝶にある息遣ひ
(72) せせらぎに沿ふて咲く萩園児帽
(73) 音に振り向けばそこには桐一葉
(74) 韓国の教へ子如何にかちがらす
(75) 出来秋の藁の香ばし苞納豆
(76) 画室より霧の榛名湖舫ひ船
(77) 影の舞ふ光の中に秋の蝶
(78) ディズニーの話で沸いた二百十日
(79) 秋の暮家路の前に白ワイン
(80) 通るたび稲穂垂るるを見て安し
(81) 竹の春老いて不良となりにけり
(82) 新米や明るく歌ふ炊飯器 
(83) 星月夜古民家残す喫茶店
(84) 松手入れ関の町から来る庭師
(85) 葛の花映すダム湖へなだれこみ
(86) 秋水になほ透きとほる君の声
(87) 茶だまりの銀の灯火秋の声
(88) 山の名を持ちたる酒を酌む良夜
(89) サルビアの朱を濃くして茜雲
(90) 人生の奥へ奥へと霧の中
(91) 冷房や勝手に動く運道具
(92) 水引草今年もここに咲きにけり
(93) 霧の夜記憶の海の漂ひぬ
(94) 野牡丹の一日の命散らす朝
(95) 病明け桜紅葉となりにけり
(96) 大海の浪穏やかに秋の声
(97) 鬼の子も悲しむ氷河日々退きて
(98) 野分晴夢二を慕ひ集ふ街
(99) 秋の雲未だ鱗には程遠く
(100) 色鳥の休める羽の軽さかな
(101) 秋灯やすこし反りたるカレンダー
(102) いぼむしり日陰探して行きなさい
(103) 大銀河平泳ぎして見る地球
(104) 遅れたる人に優しき夜学かな
(105) 十六夜や銀座ジャズ吹く九十歳
(106) お座りよ土間でお喋り衣被
(107) 抱き上げて同じ目線の花野かな
(108) 一瞬に口籠もる君早生林檎
(109) ひとたびは人間やめてゆく花野
(110) 小望月大阪湾の遠汽笛


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